■ 水鳥の水尾美しく年暮るる
( みずとりの みおうつくしく としくるる )
本日の掲句は、そんな光景を見て詠んだ句である。「水鳥の水尾(みお)」と「年暮るる」の両方に「美しく」をかけて詠んだ句だが、この方法が良いかどうかは些か心許ない。尚、「水鳥」「年暮るる」はともに冬の季語なので本句は季重なりの句となる。
ところで、水尾とは、船の通ったあとにできる跡のことで、俳句では水鳥が泳いだ時にできるものも水尾と呼んでいる。水脈、澪とも書くが、この方はもっぱら、河川や海で船が航行する水路のことをさす。
水鳥の水尾は、見ていて非常に面白く、過去にも以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 水鳥の水尾おだやかに立つや春
② 水鳥の水尾美しき水面かな
③ 水鳥の水尾広ごりて消えゆけり
①は、立春の日に詠んだ句。季重なりだが、「春」が主たる季語。②は、水面に広がる水尾そのものの美しさに着目し詠んだ句。季語は「水鳥」(冬)。③は、水尾ができては広がって消える様に着目した句。季語は「水鳥」(冬)。
こう見てみると、①は、「水鳥の水尾」と「立春」との配合で、掲句と組み立ては類似する。②は、掲句と下五が違うだけであり、これも類句と見ることができる。同じ場面を見て句をいくつも作れば、当然こういうことが起こる訳だが、趣向が違う限りは別句と捉え、今のところはそのまま残すことにしている。
水鳥の水尾に関しては、名だたる俳人も詠んでおり、以下にそのいくつかを掲載した。但し、水鳥でなく、浮寝鳥や固有名のものも含む。
水尾ひいて離るる一つ浮寝鳥 (高野素十)
水鳥の水尾の静かに広かりし (高浜年尾)
水鳥に水尾したがひて静なり (下田実花)
初鴨の水尾まつすぐに折返す (鷹羽狩行)
白鳥の水尾ぐいぐいと山を引く (大串章)
*図らずも、高浜年尾氏の句と関連句③は類句となった。事前に見た訳ではないので、たまたま、こういう句に出会うと嬉しくなる。尚、同氏の句は富安風生氏の追悼句として詠まれたものらしい。