■ 蓮枯れて露わになりぬ蜷の道
( はすかれて あらわになりぬ になのみち )
実は、この模様については以前から気が付いていたが、何なのか良くわからなかった。ところが、ある日のこと、別の場所で同じような模様があり、何やら黒いものが動いているのを見た。どうやら田螺(たにし)のような巻貝である。
早速家に帰って調べたところ、田螺ではなく川蜷(かわにな)だと分かった。決めては、あの迷路のような模様である。この模様はよく知られていて、「蜷の道」とも言われている。しかもそれが春の季語になっているとのこと。
本日の掲句は、その蜷の道が、蓮が枯れたことで露わになったと詠んだものである。ただ本句の「蓮枯る」は冬の季語なので、冬の句として残すことにした。「蜷の道」も春の季語なので季重なり、季違いの句になるが、本句では考慮しない。
カワニナ(川蜷)は、カワニナ科に分類される巻貝の一種。東アジアの淡水域に棲む細長い巻貝で、ゲンジボタルやヘイケボタルといった水生ホタル幼虫の餌としても知られている。
春になると、温くなった川や、水の張られたばかりの田に現れ、底を這うようになる。そのとき泥につく移動の跡を「蜷の道」と呼び、俳句では、既述の通り春の季語になっている。ただ、実際のところ春に限らず、今の時期も見られる。(多分、年中見られると思うが確認していない。)
成貝は殻長30mm・殻径12mmほどで、全体的に丸みを帯びた円錐形をしている。繁殖期は春と秋で、雌は卵ではなく微小な仔貝を300~400匹ほど産み落とす。
因みに、「枯れ蓮(かれはちす)」では、昨年以下の句を詠んでいる。
蓮の葉も破れ尽きたり枯れ蓮
俳句では、蓮の葉や姿を、夏に「蓮の葉」、秋に「破れ蓮(やれはちす)」、冬に「枯れ蓮」というように名を変え、それぞれ独特の情趣をもって詠まれる。本句は、そんな蓮の葉・姿の変化をとらえて詠んだ句。
参考句に関しては、「蜷の道」に関するものを掲載することも考えたが、春の季語なので、今回は、「蓮枯る」で詠んだ句を掲載することにした。
【蓮枯るの参考句】
ひとつ枯れかくて多くの蓮枯るる (秋元不死男)
夜に入りてさらに静かに蓮枯るる (辻田克巳)
幾枚も青空沈め蓮枯るる (高野ムツオ)
蓮枯るる直線太く交へつつ (吉田汀史)
おのが影池に映して蓮枯るる (河本遊子)