■ 碧落に鴟尾の耀う年の暮
( へきらくに しびのかがよう としのくれ )
さて、今年の締めくくりは先日行った平安神宮の景で、透き通る青空をバックに輝く鴟尾(しび)を取り上げたい。
鴟尾とは、古代の宮殿や寺院の大棟の両端に据える沓形の飾り瓦。魚の尾をかたどったもので、火除けのまじないだと言われている。
すなわち、魚の尾の見える屋根の上面を水面に見立て、その水面下にあるもの(建物)は燃えないというのである。
尚、後世の鯱(しやちほこ)は、これが進化したもので、火事か起こった際には水を噴き出し火を消すと言われている。
ついてに言えば、寺社でよく見られる巴瓦(ともえがわら)は、水が渦を巻くさまを示す巴紋(勾玉のような文様)をつけたもので、これも火除けのまじないとしてよく使用された。
前書きが長くなったが、本日の掲句は、その鴟尾が平安神宮の外拝殿の屋根上で金色に光っているのを見て詠んだ句である。特にバックには晴れ渡る広大な青空が広がっており、それを「碧落」と表現した。季語は「年の暮」(冬)。
【碧落(へきらく)】 「碧」は濃い青色、「落」は広大の意で、青い大空のことをいう。
初空や神殿の鴟尾明らけし
この句は、年が明けて、同じ平安神宮に初詣に行った際に詠んだ句。
【鴟尾の参考句】
あしび咲く辺をすぎゆけば金の鴟尾 (阿波野青畝)
奈良坂に夕刊遅し月の鴟尾 (桂樟蹊子)
寒月や光返して寺の鴟尾 (赤柴公子)
堂隅に鴟尾ねむらせて寺薄暑 (山本つぼみ)
鴟尾すべり落つ天平の恋雀 (田中水桜)